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生命の起源に関する一考察1

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目次
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雄博会千住病院 松田 源治

I はじめに

 生物学上極めて重要な二つの学説が19世紀半ばに相次いで発表された。その一つはパスツール(Louis Pasteur)による「生物の自然発生を否定する」学説であり,もう一つはダーウィン(Charles Darwin)による「生物進化」に関する学説である。これらの学説によると,現在の地球上に生存するすべての生物はそれらの生物の祖先型である一つの生物より分かれて進化してきたとされている。
この事実は,現在の地球上に生存するすべての生物が蛋白質・核酸・糖質・脂質その他の共通した有機化合物より構成されていること,さらに全ての生物種から得られた有機化合物が共通した基本構造を有することなどによって支持されている。例えば,全ての生物種から得られた蛋白質は共通した構造を有する約20種類のアミノ酸から構成されているし,さらに,核酸・糖質・脂質その他の有機化合物も同様に共通した基本構造を有する。
そこで,生命の起原となる最初の生命体すなわち生物は,どのようにして,この地球上に出現したかということになる。例えば,この最初の生命体は神によって作られたと信じている人々も多いかも知れない。あるいは地球上の最初の生命体は他の天体において件られて,地球上に運ばれてきたとする説を出している人々もいる。しかしながら,現在のところ,地球上の最初の生命体はこの地球上において作られたと考えている人々が最も多いように思われる。
特に,1950年代の初頭に,米国のユリー(Harold C. Urey)とミラー(Stanley L. Miller)が水素(H2),メタン(CH4),アンモニア(NH3),および水蒸気(H20)をフラスコ内に入れて,放電したところ,そのフラスコ内に種々のアミノ酸の生成が認められた。これらの実験によって,地球上の最初の生命体が地球上において作られたとする仮説が俄かに現実味を帯びてきた。これらのアミノ酸がさらにぺブチド結合によって連結して,蛋白質を生じたとしている。同様に生物を特徴づける他の高分子化合物も地球上において合成され,そして,最終的に生物の出現に至ったというのである。
生命体の最小限度の構成要素としては,遣伝情報を有する核酸と,それらの遺伝情報に基づく機能を発現する蛋白質であると考えられている。そこで,最初の生命体においては核酸と蛋白質のうちの何れが先に作られたかということになるが,蛋白質の合成のためには,遣伝情報を有する核酸が必要であり,核酸を合成するためには,触媒作用を有する蛋白質が必要である。したがって,地球上における最初の生命体の生成に際して,核酸と蛋白質のうちの何れが先に作られたかを決めることは極めて困難である。
そこで,1960年代になって,オーゲル(Leslie E. Orgel)らは地球上の最初の生命体は遣伝情報と触媒活性の両方を有するリボ核酸(RNA)が自己複製をおこし始めたことによって生じたとする説を出したが,その後,1980年代になって,実際に触媒活性を有するリボ核酸(RNA)が発見されたことから,このオーゲルらの説はより多く注目されるようになり,その生命の起原に至る環境はRNAワールドと呼ばれている。
他方,私が主張している生命の起原に関する仮説は前述の諸仮説とは若干異なっている。生命の起原およびその後の生物の進化は宇宙の起原と進化,地球の起原と進化あるいはエネルギーと物質の相互変換などと密接に係わっている。そこで,それらの事実と関連づけながら,私の仮説も交えて,この後数回にわたって,生命の起原について考察することにする。


II 宇宙の起原と進化

II-a 宇宙の起原と素粒子の形成

宇宙の起原あるいはその後の進化については,多くの宇宙物理学者達がその謎を解明するために努力してきた。最初,宇宙はエネルギーを凝集した収縮状態にあったとされている。今から大凡150億年前,その状態から宇宙は大爆発をおこして,急激な膨脹を始めた。いわゆる,宇宙誕生の大爆発(ビッグバン,big bang)である。実は,この説は1940年代の末にガモフ(Gorge Gamow)によって提唱されたものであるが,その後,ハッブル(Edwin Powen Hubble)による銀河の後退速度に関係する赤方偏移(red shift)の観測(ハッブルの法則.Hubble's law),宇宙黒体放射(Cosmic black-body radiation)の観測あるいはヘリウムや重水素などの軽い元素の宇宙における存在比の測定結果などによって支持されている。
字宙誕生の大爆発の瞬間において,宇宙は無限大の温度と密度を有していたと考えられているが,それより極短時間後には,宇宙の温度は1015度まで下ったとされている。それでも著しい高温である。その頃の宇宙ではクォーク(quark)や電子(electron)などの種々のタイプの素粒子(elementary particle)とその反粒子(antiparticle)がエネルギーの大海の中を活発に動き回っていたと思われる。クォークにもいろいろな種類があり,6種類のクォークが知られている。それらはアップ・クォーク(u-quark),ダウン・クォーク(d-quark),ストレンジ・クォーク(s-quark),チャーム・クォーク(c-quark),ボトム・クォーク(b-quark),およびトップ・クォーク(t-quark)である。ボトム・クォークまでの5種類のクォークは1977年頃までに,既にその存在が確認されていたが,最後のトップ・クォークは,その存在が予測されながら,最近まで確認されていなかった。しかし,昨年から今年にかけて,米国のフェルミ国立加速器研究所の2組の研究グループによって,相次いで確認された。これらがこの宇宙の最初の物質である。
そして,それらの素粒子と反粒子は互いに衝突し,反応して,生成と消滅を繰り返していた。その後,宇宙の膨脹と冷却が進むに従って,それらの素粒子のなかのクォークを含む陽子(プロトン.proton),中性子(ニュートロン.neutron),あるいは中間子(meson)なども作られた。陽子は2個のアップ.クォークと1個のダウン・クォークを含み,中性子は1個のアップ・クォークと2個のダウン・クォークを含む。さらに中間子はクォークと反クォークを含む。
現在までに非常に多数の素粒子が知られているが,これらの素粒子は強い相互作用を有するハドロン(hadron)族,強い相互作用を有しないレプトン(lepton)族および相互作用を媒介するゲージ粒子(gause particle)族の3種類に大別される。そのうちのハドロン族はさらに陽子,中性子その他の粒子を含むバリオン(baryon)族と数種類の中間子を含む中間子(meson)族に分けられる。レブトン族には電子やニュートリノ(neutrino)などが含まれる。また,ゲージ粒子族に属するものとしては光子(photon),グルオン(gluon)およびボソン(boson)などがある。なお,ハドロン族に属する陽子,中性子および中間子はクォークの他にグルオンも結合していることが知られているので,厳密な意味では素粒子とは言えないかも知れないけれども,一般的に広く,素粒子として取扱われている。


II-b 原子の形成

 宇宙の膨脹と冷却がさらに進み,大量の陽子が作られ,水素の原子核(atomic nucleus)を形成した。また,陽子と中間子が結合して,ヘリウムの原子核が形成された。現在の宇宙に存在する水素やヘリウムの原子核の大部分はこの頃に生成されたと思われている。宇宙誕生の大爆発後,これまでに要した時間は1分間ともあるいは3分間とも言われている。水素の原子核は1個の陽子,また,ヘリウムの原子核は2個の陽子と2個の中性子を含んでいる。
この頃の宇宙にはまだ通常の原子(atom)である中性原子(プラスに荷電した原子核とマイナスに荷電した電子が結合して中性となる)は殆ど存在していなかった。それは宇宙がまだ非常に高温であったために,原子核は電子を捕捉することができなかったのである。宇宙の膨脹と冷却がさらに進み,原子核と電子が結合して,多量の中性原子が生成されたのは,それより30万年後ともあるいは100万年後とも言われている。最初に生成された原子は水素(hydrogen,H,原子番号 1,原子量1.008)とヘリウム(helium,He,原子番号 2,原子量4.003)のような軽い原子であった。このようにして水素およびヘリウムの大部分は宇宙誕生の大爆発より30万年あるいは100万年後における著しい高温の中で生じたものと考えられている。
元来,宇宙の万物を形成している物質の構成要素は元素(element)と呼ばれる。現在,100種類以上の元素が知られているが,各元素はそれぞれ固有の一定の質量を有する粒子すなわち原子から成る。言い変えると,元素とは同一原子番号を有する原子の集合名詞である。従って,100種類以上の原子が存在することになる。なお,全ての元素は同じ原子番号を持ちながら,質量数を異にする同位元素(isotope)を有する。例えば,質量数1の水素(1H)には質量数2の重水素(heavy hydrogen,2HまたはD)および質量数3の三重水素(tritium,3HまたはT)の同位元索が存在する。そして,水素(lH),重水素(2H)さらに三重水素(3H)の原子核はそれぞれ1個の陽子,1個の陽子と1個の中性子,さらに1個の陽子と2個の中性子を含んでいる。また,水素原子,重水素原子および三重水素原子はともに1個の電子を含んでいる。
生命の起原について考察するためには,前にも述べた如く先ず宇宙の起原あるいは物質の起原についても考察する必要がある。今回は主として,宇宙の起原とそれに続く素粒子の形成および最初の原子の形成について述べた。次回は主として,原子の構造,さらに,水素やヘリウム以外の種々の元素の起原について述べることにする。


佐世保市医師会報第69号(平成7年 仲秋)より平成9年8月21日転載

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